東京高等裁判所 平成10年(行ケ)257号 判決 2000年6月07日
原告
アプライドマテリアルズインコーポレーテッド
代表者代表取締役
【A】
訴訟代理人弁護士
中村稔
同
熊倉禎男
同
田中伸一郎
同
折田忠仁
訴訟代理人弁理士
【B】
同
【C】
被告
特許庁長官【D】
指定代理人
【E】
同
【F】
同
【G】
同
【H】
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
第1当事者の求めた判決
1 原告
特許庁が、平成7年審判第20064号事件について、平成10年4月6日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文1、2項と同旨
第2当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯
原告は、1989年4月18日にアメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、平成2年2月13日、名称を「半導体加工のための耐圧熱反応装置システム」とする発明につき特許出願をした(特願平2-32317号)が、平成7年5月17日に拒絶査定を受けたので、同年9月18日、これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は、同請求を平成7年審判第20064号事件として審理したうえ、平成10年4月6日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同月27日、原告に送達された。
2 本願明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)の要旨
放射熱供給源としてのランプと共に用いられる高温、低圧の反応容器であって、内表面と外表面を持つ壁を有し、該容器内のより低い圧力との圧力差に対して使用される反応室を画定し、長手方向の軸を更に画定し、当該長手方向の軸に対して垂直をなす横断面が非円形である細長い石英チューブと、前記圧力差により前記壁に加えられた圧力に対して耐えるべく該壁の前記外表面に取付けられた少なくとも一つの外部補強材とを備えている反応容器。
3 審決の理由の要点
審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明が、特開昭63-200526号公報(以下「引用例1」といい、そこに記載された発明を「引用例発明1」という。)及び実願昭61-75991号(実開昭62-186424号)のマイクロフィルム(以下「引用例2」といい、そこに記載された発明を「引用例発明2」という。)にそれぞれ記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定によって特許を受けることができず、他の請求項の発明につき検討するまでもなく、本願出願は拒絶すべきであるとした。
第3原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由中、本願発明の要旨の認定、引用例1及び引用例2の各記載を摘記した部分の認定(審決書3頁4行~5頁5行、5頁14行~6頁8行)及び本願発明との対比に当たっての引用例発明1に関する認定(同6頁18行~8頁17行)は認める。
審決は、本願明細書及び引用例1に開示された技術事項を誤認して、本願発明と引用例発明との相違点を看過し(取消事由1)、また、引用例2に開示された技術事項を誤認し、かつ、引用例発明2を引用例発明1に組み合わせることの困難性を看過して、相違点についての判断を誤った(取消事由2)結果、本願発明が引用例発明1、2に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。
1 取消事由1(相違点の看過)
(1) 審決は、「引用例1には、減圧した状態で赤外線ランプにより加熱処理を行う、断面が楕円形の偏平筒体状に形成された石英反応管において、反応管の内周面と鏡板部の内周壁に沿って固着させた補強板を設け、もって反応管内の負圧により反応管が押潰されることを防止するようにした発明が記載されているものと認められる」(審決書5頁6~13行)とし、「引用例1に記載された発明(注、引用例発明1)では補強材が反応管すなわち反応容器の内側に取り付けられているのに対して、請求項1に係る発明(注、本願発明)では、補強材が反応容器の壁の外表面に取り付けられている点」(同9頁9~13行)のみを、引用例発明1と本願発明との相違点として認定した。
(2) しかしながら、本願明細書に「そのような加工の例には、低圧の化学的蒸着、減圧の化学的蒸着や選択的なエピタキシアル蒸着などが含まれる」(甲第2号証4頁左上欄16~18行)と記載されているように、本願発明は、主として、低圧・減圧の化学蒸着(CVD)、選択的なエピタキシアル蒸着の用途に使用するものである。
これに対し、引用例1には、「本発明はウエハ表面域に酸化、拡散、気相成長等の各種熱処理を行う半導体ウエハの減圧熱処理装置に用いられる反応管の改良に関する」(甲第5号証2欄2~4行)と記載されているが、化学蒸着に用いることは記載されていない。
このように、本願発明と引用例発明1とは、半導体ウエハ等を減圧下で熱処理する反応容器(管)である点では共通するが、その用途において異なるものである。
この点につき、被告は、本願発明が化学蒸着に使用されるとの用途が、その利用分野の例示にすぎないと主張し、さらに、引用例1の上記記載に係る「気相成長」が、技術概念上、化学蒸着やエピタキシアル蒸着を包含するものであると主張する。
しかしながら、本願発明は、容器内壁面に蒸着が生じる種類の工程において、そのような壁面への蒸着を制限し、ウエハ上にコントロールされた蒸着を生ぜしめることを技術的課題としたものである。本願発明における化学蒸着等の用途と、その実施における課題・目的は、本願発明の中心をなすものであって、これを単なる例示にすぎないとする被告の主張は誤りである。本願明細書の実施例において記載された、石英チューブの内壁上への蒸着・堆積の弊害及びこれを最少限にする効果の記載が、実施例に限った記載であると限定的に解釈することも到底できない(なお、本願発明は化学蒸着に適した反応容器を提供することを目的とするものであるが、これが、化学蒸着等以外の、例えば、単なる酸化工程に使用され得るとしても、そのために本願発明の特許性が影響を受けるものではない。)。
また、後記のとおり、引用例発明1は、容器内壁面への沈着堆積が生じる反応の用途には使用できないから、引用例1に、本願発明と同一の用途・目的・作用効果を有する反応管が開示されているとすることはできない。当業者は、引用例1の上記「気相成長」との記載が、沈積堆積を伴わない反応、すなわちウエハ表面上のエピタキシャル成長反応のみを意味するものであり、したがって、本願発明の化学蒸着とは異なるものと正しく認識し得るものである。
(3) さらに、審決は、引用例1記載の「仕切り板2,3」を補強板と認定したものであるが、引用例1には、該「仕切り板2,3」が、補強材であるとともに、半導体ウエハを載置する手段、反応管の二重構造化の手段、反応管を三分化して使用ガス量を節約する手段、減圧工程の円滑化及び圧力の偏在防止のための手段等であることが記載されており(甲第5号証6欄末行~7欄19行)、引用例発明1において、仕切り板2,3が、反応管内部において長手方向に平行に設けられる構成であることによってのみ、そのような目的を達成し得るとされていることは明白である。
しかしながら、引用例発明1の反応管内部に設けた仕切り板2、3の存在は、低圧・減圧の化学蒸着の実施に対し、害はあっても、有益な効果を奏するものではない。すなわち、本願明細書には、「とりわけ重要なことは、ウエーハを横断して一様な結果、すなわち蒸着の厚さを保証するために温度やガスの流れを一様にすることである。」(甲第2号証4頁左上欄18行~右上欄1行)、「石英チューブ110の上における蒸着は、熱反応装置システム110を使用して行われる後続するプロセスにとっては、潜在的な汚染物質である。」(同7頁左上欄10~13行)と記載されているところ、引用例発明1のように反応管の内部に仕切り板を設ければ、仕切り板上に蒸着した化学物質が、後続する処理工程において処理対象の半導体ウエハを汚染する汚染物質の発生源となることは、当業者にとって容易に理解できることである。したがって、引用例発明1における、仕切り板を反応管内部に設ける技術思想は、本願発明の目的に反し、解決しようとする課題と対立するものである。
審決は、引用例発明1の仕切り板2、3につき、単に補強部材としての機能のみに着目して、その多様、かつ、独自の目的、機能と、そのための具体的構成を看過するとともに、本願発明の用途を看過した結果として、補強部材を反応管外表面に設けた目的・作用効果をも看過したものというべきである。
(4) 以上のように、審決は、本願発明が化学蒸着の用途に供するものであるのに対し、引用例発明1が化学蒸着の用途に用いられるものではないという相違点を看過し、引用例発明1の目的に基づく内部補強材の構成を本願発明に適用した場合、本願発明の目的・作用効果を達成しないものである(それは、既に本願明細書において、排除すべきものと明示された種類のものである)という相違点を看過した誤りがある。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)
(1) 審決は、相違点として認定した「引用例1に記載された発明(注、引用例発明1)では補強材が反応管すなわち反応容器の内側に取り付けられているのに対して、請求項1に係る発明(注、本願発明)では、補強材が反応容器の壁の外表面に取り付けられている点」(審決書9頁9~13行)につき、引用例2に、「半導体ウエーハを加熱処理する際に使用される石英ガラス製炉芯管において、補強を目的としてその壁の外表面に補強材を取り付ける発明が記載されているものと認められる」(同6頁9~13行)としたうえ、「ここにおける『石英ガラス製炉芯管』は引用例1における『反応管』に相当するものであるから、当該引用例2に記載された発明(注、引用例発明2)に基づけば、引用例1に記載された発明において、反応管すなわち反応容器を補強するための補強材を、反応容器の内側に代えて壁の外表面に取り付けるようにすることは、当業者が容易に想到することができたものである。さらに、本願の明細書及び図面を精査しても、補強材を反応容器の壁の外表面に取り付けることによる格別な効果を見出すことができない。」(同10頁1~11行)と判断した。
(2) しかしながら、本願発明の補強材が、低圧の反応容器における内圧と外圧の圧力差に起因する破損を防止するために設けられるものであることは、本願発明の要旨に照らして明白であるところ、審決は、引用例発明2の補強材がどのような補強を目的として設けられているかを認定しておらず、その補強が、炉芯管の内圧と外圧との圧力差に起因する破損を防止する目的のものではなく、かつ、そのためには何らの効果もないことを看過したものである。
すなわち、引用例2には、引用例発明2において炉芯管の外周壁に長手方向の石英ガラス棒を溶接して補強することの趣旨が、熱応力による炉芯管(内管)の変形(熱変形)を防止し、かつ、炉芯管と灼熱管(外管)との接触を少なくすることにより両者の熱融着を防いで、炉芯管の寿命を延ばすことにあることが記載されており(甲第6号証2頁8行~3頁9行)、炉芯管の内圧と外圧との圧力差に起因する破損の防止は、引用例発明2における技術的課題ではない。そもそも、引用例発明2のような断面が真円形の炉芯管では、内圧と外圧との圧力差による力を円周方向に均等に分散するから、元来耐圧力を有し、内外圧力差に起因する破損という問題が殆ど生じない。また、本願発明において問題としている内外圧力差による非円形管の破損は、管の長さに沿って、かつ、細い側壁に沿って亀裂として生じるものであるところ、管の外周壁に石英ガラス棒を長手方向に溶接しても、亀裂と平行となるから、該圧力差に起因する破損の防止に全く効果がなく、そのことは当業者には自明である。したがって、引用例2には、内外圧力差に起因する変形・破損を防止する目的で、管の外表面に補強材を設けることは、開示も示唆もされていないのである。
この点につき、被告は、引用例発明2の炉芯管に生じる熱応力及び変形が、管壁に外力が加わった場合と同様であると主張し、さらに、引用例発明2の石英ガラス棒を引用例発明1の反応管に適用して、その外周壁長手方向に取り付けると、長手方向断面から見た曲がりが小さくなり、これに伴って横断面方向から見た曲がりも小さくなるから、内外圧力差により該反応管の壁に加えられた圧力に対して耐える効果を奏すると主張する。
しかしながら、負圧の応力による変形と熱応力による変形とでは、変形の発生原因、発生態様、大きさにおいて全く異なるから、両者を「応力」という言葉で一つに括ることにより、引用例発明2の石英ガラス棒を引用例発明1に適用し得るものではないし、適用しても、本願発明の要旨に規定する「前記圧力差により前記壁に加えられた圧力に対して耐えるべく該壁の前記外表面に取付けられた少なくとも一つの外部補強材」の構成を得られるものではない。
加えて、引用例2には、引用例発明2が化学蒸着を用途とすることの開示はなく、また、その外周壁長手方向に石英ガラス棒を配設した炉芯管を化学蒸着の用途に使用することはできないものである。
すなわち、本願明細書に、「圧力差による平らな壁やその他の非円筒形の壁の変形は、壁の厚さを厚くすることによって、対処することができる。しかし厚い壁の熱絶縁はあまりにも大きい。外部の冷却剤、典型的には空気が室の壁の温度を減少させる効率が下がれば、壁の内表面における化学的な蒸着が増すようになるだろう。さらには、内表面は熱くなれば外表面よりも一層急速に膨張する傾向があり、室の壁にひびが入るだろう。」(甲第2号証5頁右上欄19行~左下欄7行)、「石英チューブを厚くすれば、容器の内部の壁における蒸着の量を増加することができるだろう。さらには、壁がより厚くなれば、熱膨張によって破壊されることになるだろう。」(同7頁右下欄11~14行、なお、「できるだろう」は「なるだろう」の誤り。)と記載されているとおり、化学蒸着の用途に使用する場合において、管壁を厚くすることは、熱伝導率を悪化させ、化学蒸着用の物質が管の内表面に蒸着堆積する等の不都合な点を生じさせる。そして、引用例発明2における炉芯管を化学蒸着の用途に使用した場合、その外周壁に配設された長手方向の石英ガラス棒による突起は、該部分における壁を厚くし、その結果、管内部の突起の下側を冷却することが困難になって、ガスが長手方向に管の中を流れたときに、管に縞状の堆積物をもたらすことになるのである。
そうすると、引用例発明2の石英ガラス棒を、引用例発明1の反応管に取り付けて補強材としたものは、本願発明において、排除されている構成に該当するものである。
(3) このように、引用例発明2は、本願発明と技術課題を異にするものであり、反応管の内圧と外圧との圧力差に起因する破損の防止を目的として、反応管の外壁の外表面に補強材を設けた構成は、引用例2には全く開示されていない本願発明に独特のものである。引用例発明1は、本願発明と同様の技術課題を認識しているが、その解決方法は、反応管の内部に少なくとも一対の平行な仕切り板を配設するというものであり、本願発明とは全く構成が異なる。上記のように、引用例発明2は、本願発明と技術課題を異にするから、引用例発明2を引用例発明1に組み合わせることは、その技術的動機を欠くというべきであるし、引用例2に、内外圧力差に起因する反応管の破損の防止を目的として、管の外壁の外表面に補強材を設けた構成が開示されていないから、引用例発明1、2を組み合せても、本願発明の構成を想到することは不可能である。
また、1の(3)で述べた引用例発明1の仕切り板の目的効果に照らすと、引用例発明1の補強材は、反応管内部の一対の平行な仕切り板でなくてはならず、これを反応管の壁の外表面に取り付けるものに置き換えることは、引用例1の記載の趣旨に反するものである。
(4) さらに、本願明細書に、「石英繋板は、非大気圧の手順の間に圧力によりチューブにゆがみができないようにするために付加的な力を加える。好ましいのは、より効果的な冷却をするために冷却剤の流れを制御することができるように、繋板がチューブの周囲を円を描くように延長する平行な隆起部として配列されていることである。赤外線熱源のランプは、繋板に対してジグザグに配置され、繋板が熱を最もさえぎらず、より一様な加熱を加えるという方形の形態の利点を保持している」(甲第2号証6頁右上欄末行~左下欄9行)、「冷却剤源140は赤外線ランプ136の間および石英チューブ110の外表面144に対して大気の空気を押しつける。繋板111-115は冷却剤路148を画定し、冷却剤路148は第2図に示されているように、より効果的に冷却をするために石英チューブ110の周囲で円周に沿って冷却剤を導く」(同7頁左上欄17行~右上欄3行、甲第3号証2頁補正の内容(7))、「繋板に対してジグザグになっている赤外線ランプは、光のゆがみを最小限にしている」(甲第2号証8頁左上欄2~4行)と記載されているとおり、本願発明は、その構成によって、繋板と繋板の間隔に冷却用空気を対流させてより効果的な冷却を行うことができ、また、繋板に対してジグザグになっている赤外線ランプにより、一様な加熱が可能となるという独自の作用効果を奏するものである。
(5) したがって、審決の上記相違点についての判断は誤りである。
第4被告の反論の要点
審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。
1 取消事由1(相違点の看過)について
(1) 原告は、本願発明が、主として、低圧・減圧の化学蒸着、選択的なエピタキシアル蒸着の用途に使用するものであると主張するが、本願発明の要旨は、「放射熱供給源としてのランプと共に用いられる高温、低圧の反応容器」と規定しており、それ以上に反応容器の用途が限定されているものではない。また、本願明細書の発明の詳細な説明中の「利用分野」の欄には、「本発明は半導体加工に関連し、より詳細には化学的蒸着、加熱焼きなましおよび高温加工を必要とするその他の手順のための熱中性子炉に関する。」(甲第2号証4頁左上欄3~5行、甲第3号証補正の内容(2))とのみ記載されている。
本願明細書の「そのような加工の例には、低圧の化学的蒸着、減圧の化学的蒸着や選択的なエピタキシアル蒸着などが含まれる。」(甲第2号証4頁左上欄16~18行)との記載は、その記載や前後の記載から見て、本願発明の利用分野の例示にすぎず、また、「石英チューブ110の上における蒸着は、熱反応装置システム110を使用して行われる後続するプロセスにとっては、潜在的な汚染物質である。」(同7頁左上欄10~13行)、「石英チューブを厚くすれば、容器の内部の壁における蒸着の量を増加することができるだろう。」(同頁右下欄11~13行)との各記載は、実施例の一つに関するものである。
そうすると、本願発明が化学蒸着の用途のみに使用されるものと解することはできない。
また、原告は、引用例1に、「本発明はウエハ表面域に酸化、拡散、気相成長等の各種熱処理を行う半導体ウエハの減圧熱処理装置に用いられる反応管の改良に関する」(甲第5号証2欄2~4行)と記載されているものの、化学蒸着に用いることは記載されていないと主張するが、昭和58年12月10日発行の日本学術振興会薄膜第131委員会編「薄膜ハンドブック」に、「CVD(chemical vapordeposition)法とは化学気相成長法のことであり、一般にPVD(physical vapordeposition)法と対比して定義づけられている。形成させようとする薄膜材料を構成する元素からなる1種またはそれ以上の化合物・単体のガスを基板上に供給し、気相または基板表面での化学反応により、所望の薄膜を形成させる方法である。PVD法が材料の真空蒸着やスパッタリングなどによって薄膜を形成させるのに比べ、化学的手段であることが大きな相違点であるが、最近、このCVD法とPVD法の双方の要素を持った方法も登場した。」(乙第5号証197頁左欄4~14行)、「エピタキシャル法は液相成長(LPE)と気相成長(CVD)に分けることができる。」(同727頁右欄2~4行)、「被膜の形成には、多くの場合、真空蒸着法、イオンプレーティング、スパッタリングなどの物理的蒸着法やCVDなどの化学的蒸着法が用いられる。」(同873頁左欄11~14行)とそれぞれ記載され、1989年1月14日発行の【I】外1名編「VLSI製造技術」に、「CVD(化学蒸着)法は、真空蒸着など物理蒸着法に対する言葉であり、気相での化学反応を利用して薄膜を形成する方法である。」(乙第6号証145頁11~12行)と記載されているように、化学(的)蒸着法と化学気相成長法は、物理蒸着法(PVD)と対比して、ほぼ同義に用いられているところ、引用例1のように単に「気相成長」と記載された場合には、化学気相成長(CVD)と物理気相成長(PVD)の双方の技術を含むものといえるから、引用例1に、引用例発明1を化学蒸着に用いることが記載されていないとの主張も誤りである。
(2) 原告は、審決が、引用例発明1の仕切り板2、3につき、単に補強部材としての機能のみに着目して、その多様な機能と、そのための具体的構成を看過したと主張するが、引用例1には「反応管1を負圧下において加熱した場合に生じる変形を阻止する少なくとも一対の仕切板2,3を平行に配設した点.従って前記仕切り板2,3は、必ずしも一対のみではなく三枚以上設けてもよく、」(甲第5号証2頁右上欄20行~左下欄4行)との記載があり、反応管内の負圧により反応管が押潰されることを防止するという引用例発明1の目的から見て、その仕切り板2、3は、補強板として機能すれば足りるものであって、原告の主張する半導体ウエハを載置する手段、反応管の二重構造化の手段、反応管を三分化して使用ガス量を節約する手段、減圧工程の円滑化及び圧力の偏在防止のための手段等となることは、仕切り板の構成に伴う付随的な作用・効果というべきであるから、審決が、本願発明と対比すべき発明として、引用例発明1を「石英反応管において、反応管の内周面と鏡板部の内周壁に沿って固着させた補強板を設け、もって反応管内の負圧により反応管が押潰されることを防止するようにした発明」(審決書5頁9~12行)と認定したことに誤りはない。
また、原告は、低圧・減圧の化学蒸着の実施において、引用例発明1のように反応管の内部に仕切り板を設ければ、仕切り板上に蒸着した化学物質が、後続する処理工程において処理対象の半導体ウエハを汚染する汚染物質の発生源となるから、有害であると主張するが、引用例1には、そのような作用を生じることは記載されておらず、仮に、引用例発明1にそのような作用が生じるとしても、本願発明が化学蒸着の用途のみに使用されるものでないことは上記のとおりであって、そのことが審決の結論に影響を及ぼすものではない。
(3) よって、審決に、原告主張の相違点看過の誤りはない。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について
(1) 原告は、本願発明の補強材が、低圧の反応容器における内外圧力差に起因する破損を防止するために設けられたのに対し、引用例発明2の補強材が、熱応力による炉芯管(内管)の変形を防止し、かつ、炉芯管と灼熱管(外管)との接触を少なくすることにより両者の熱融着を防ぐことを目的とするもので、内外圧力差に起因する炉芯管破損の防止は、引用例発明2における技術的課題ではなく、審決はその点を看過したものであると主張する。
しかしながら、引用例2の「内管として使用される石英ガラス製炉芯管も、長時間使用すると熱により断面が変形するため、時々回転させて使用するが、これによる延命効果にも限界があるので、さらに炉芯管の寿命を延ばすことが強く要望されていた。」(甲第6号証2頁15~19行)、「本考案は炉芯管の外周壁に長手方向の石英ガラス棒を溶接して炉芯管を補強し、耐熱性を増して寿命を延ばし、」(同3頁1~3行)、「前記石英ガラス棒は、補強効果を充分にあげるためには、炉芯管の高温に加熱される中央部分よりも長く両側の低温域に跨るように溶接する必要がある。」(同3頁18行~4頁1行)との各記載に照らすと、引用例2には、高温に加熱される炉芯管の中央部分が、熱膨張により、両側の低温域よりも拡径し、炉芯管の長手方向断面で見たときに管壁が外側に曲がるように変形するので、炉芯管の外周壁長手方向に石英ガラス棒を溶接することにより、管壁の曲げ変形を小さくして、炉芯管の寿命を延ばすことが記載されていると認められるところ、このような引用例発明2の炉芯管に生じる応力及び変形が、管壁に外力が加わった場合と同様であること、炉心管の外周壁に溶接された石英ガラス棒が、この応力の増大を防止するための補強材として機能していることは、当業者であれば容易に理解するものである。
他方、引用例1に、「該反応管1は偏平状に形成されている為に・・・内部をほぼ真空状態に減圧して加熱させた場合は、該反応管1の幅広周面上に最も押圧力が印加され、該幅広方向に沿って拡径しながら押潰すものである為に、第1図に示すように反応管1内の断面幅広方向における中央線を挟んでその両側に、透明石英材で形成された一対の仕切り板2,3を平行に設け、前記変形を阻止させている。」(甲第5号証9欄1~9行)と記載されているとおり、引用例発明1の反応管は、内外圧力差によって、反応管の横断面で見たときには、管壁が、短径方向に縮径し、長径方向に拡径するように曲げ変形するものと認められる。これに対し、反応管の長手方向断面で見たときには、内外圧力差による変形が、フランジ12、鏡板部14が存在する反応管両端部に比較し、中央部において大きくなるため、中央部がくぼんだ鼓胴型に変形する。
そして、長方形の枠体で支持された板材に外力が加えられた場合のように、交差する2つの方向の断面に曲げ変形が生じるとき、一つの方向(例えば、曲がりの小さい方向)に対して補強材を取り付けて曲がり難くすると、たわみが小さくなり、他の方向(例えば、曲がりの大きい方向)から見たときも同じく小さなたわみとなるから、この方向についても曲げ変形が小さくなるものであるところ、引用例発明1の反応管も、上記のとおり、横断面で見たときと、これと交差する方向の長手方向断面で見たときに曲げ変形が生じているから、引用例発明1の反応管に、引用例発明2のように、石英ガラス棒を外周壁長手方向に取り付けると、長手方向断面で見た曲がりが小さくなり、これに伴って横断面で見た曲がりも小さくなることになる。
したがって、引用例発明2の石英ガラス棒は、これを引用例発明1の反応管に適用し、その外周面に溶接したときに、内外圧力差により該反応管の壁に加えられた圧力に耐える効果を奏することは明らかである。
原告は、内外圧力差による非円形管の破損は、管の長さに沿って、かつ、細い側壁に沿って亀裂として生じるものであると主張するところ、そのこと自体は認めるが、上記のとおりであるから、該事実は、引用例発明2の石英ガラス棒を引用例発明1の反応管の外周面に溶接したときに、内外圧力差により該反応管の壁に加えられた圧力に耐える効果を奏することを妨げるものではない。
なお、原告は、引用例発明2の炉芯管を化学蒸着の用途に使用することはできないものであり、引用例発明2の石英ガラス棒を、引用例発明1の反応管に取り付けて補強材としたものは、本願発明において排除されている構成に該当すると主張するが、本願発明が化学蒸着の用途のみに使用されるものでないことは上記のとおりであるから、この主張も当を得ない。
(2) 以上のように、引用例発明2は、炉芯管の加熱温度の不均一により発生する応力の増大を防止するため、炉芯管の外周壁長手方向に石英ガラス棒(補強材)を取り付け、炉芯管の変形を防ごうとするものであり、該石英ガラス棒は、反応管(炉芯管)に生じる応力の増大を防止するという技術課題を解決するためのものである点で、引用例発明1の仕切り板と共通する。さらに、本願発明の要旨の規定及び本願明細書の「石英繋板は、非大気圧の手順の間に圧力によりチューブにゆがみができないようにするために付加的な力を加える」(甲第2号証6頁右上欄20行~左下欄2行)との記載によれば、本願発明の石英繋板(外部補強材)が、これらと同様、内外圧力差によって反応管(反応容器)に生じる局部的な応力の増大を、反応管のゆがみ(変形)を抑止することによって、防止する作用効果を奏することも明らかである。
そうすると、引用例発明1の仕切り板を、引用例発明2の石英ガラス棒に置き換えて、本願発明の要旨の規定する「該壁の前記外表面に取付けられた少なくとも一つの外部補強材」の構成とすることは、当業者が容易になし得る程度のことにすぎない。
なお、原告は、引用例発明1の仕切り板の目的効果に照らし、引用例発明1の仕切り板(補強材)を反応管の壁の外表面に取り付けるようにすることは、引用例1の記載の趣旨に反するとも主張するが、引用例発明1の目的から見て、その仕切り板に係る半導体ウエハを載置する手段等であることが、付随的な作用・効果というべきであって、該仕切り板は補強板として機能すれば足りるものであることは、上記1の(2)のとおりである。
(3) さらに、原告は、本願発明が、繋板と繋板の間隔に冷却用空気を対流させてより効果的な冷却を行うことができ、また、繋板に対してジグザグになっている赤外線ランプにより、一様な加熱が可能となるという独自の作用効果を奏すると主張するが、該作用効果は、繋板(外部補強材)が、「チューブの周囲を円を描くように延長する平行な隆起部として配列され」(甲第2号証6頁左下欄4~5行)ることによって得られる効果であり、本願発明の要旨の規定する「該壁の前記外表面に取付けられた少なくとも一つの外部補強材」の構成の効果ではない。
該構成を採用することによっては、反応容器の変形、ひいては破損を防止するという引用例発明1、2と同様の作用効果を奏するにすぎないから、「補強材を反応容器の壁の外表面に取り付けることによる格別な効果を見出すことはできない。」と認定した審決に何ら誤りはない。
第5当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の看過)について
(1) 原告は、本願発明が、主として、低圧・減圧の化学蒸着、選択的なエピタキシアル蒸着の用途に使用するものであると主張する。
しかしながら、前示本願発明の要旨において、本願発明の用途に関連する規定は、「放射熱供給源としてのランプと共に用いられる高温、低圧の反応容器」というものであるにすぎず、本願発明の反応容器の用途が、化学蒸着、選択的なエピタキシアル蒸着に限定されると解される規定は存在しない。
もっとも、平成6年8月19日付手続補正書(甲第3号証)及び平成7年9月18日付手続補正書(甲第4号証)による補正後の本願明細書(甲第2号証、以下単に「本願明細書」という。)の「従来技術の課題」の欄には、「ある新しい加工技術では、高温で準大気圧を持ち一様な反応ガスの流れの注意深く制御された状況のもとで、半導体構造を反応ガスに露出させることが必要になっている。そのような加工の例には、低圧の化学的蒸着、減圧の化学的蒸着や選択的なエピタキシアル蒸着などが含まれる。とりわけ重要なことは、ウエーハを横断して一様な結果、すなわち蒸着の厚さを保証するために温度やガスの流れを一様にすることである。」(甲第2号証4頁左上欄12行~右上欄1行)、「円筒形の容器は、圧力差によるひずみを一様に分散し、・・・応力が均等に分散されれば、破損の可能性が最小限になる。もう一方において、円筒形の形態によってウエーハ表面における一様な反応ガスの流れが阻止される。」(同頁左下欄16行~右下欄3行)、「ウエーハを横断して反応ガスの流れを一様にするために方形の石英の室を使用する大気圧熱反応装置が存在する。しかしながらこれらは、減圧や低圧を適用することはできない。平らな表面を横断して圧力差があれば、局部的な応力が生じて破損することになるだろう。圧力差による平らな壁やその他の非円筒形の壁の変形は、壁の厚さを厚くすることによって、対処することができる。しかし厚い壁の熱絶縁はあまりにも大きい。外部の冷却剤、典型的には空気が室の壁の温度を減少させる効率が下がれば、壁の内表面における化学的な蒸着が増すようになるだろう。さらには、内表面は熱くなれば外表面よりも一層急速に膨張する傾向があり、室の壁にひびが入るだろう。その他の設計の目的から、熱応力および壁における蒸着を減少させるために室の壁を薄くするか、それとも圧力によって生じた応力を減少させるために壁を厚くするかの間で好みの上における対立が生じる。」(同5頁右上欄13行~左下欄11行)、「必要なのは高温、非大気圧および一様な反応物の流れを考慮した熱反応装置システムである。・・・本発明の主要な目的は、非大気圧における比較的一様な反応ガスの流れによる半導体加工のための改良型の熱反応装置を提供することである。」(同頁右下欄14~15行、甲第3号証補正の内容(3))との各記載があり、本願発明の反応容器を化学蒸着の用途に使用する場合において、反応ガスの流れを一様にするために方形等の非円筒形容器としたときの問題点、すなわち、内外圧力差に起因する応力による破損のおそれと、これを避けるため壁を厚くした場合の内壁面への蒸着等の弊害について、主に記載されている。
しかしながら、前示のとおり、本願発明の要旨において、本願発明の用途が、化学蒸着、選択的なエピタキシアル蒸着に限定されていないことに加え、本願明細書の「利用分野」の欄にも、「本発明は半導体加工に関連し、より詳細には化学的蒸着、加熱焼きなましおよび高温加工を必要とするその他の手順のための熱中性子炉に関する。」(甲第2号証4頁左上欄3~5行、甲第3号証補正の内容(2))とのみ記載されていて、化学蒸着(化学的蒸着)が、広範な利用分野の1例とされているにすぎないことを考慮すれば、「従来技術の課題」欄の前示記載も、本願発明の利用分野ないし用途の1例を例示をしたうえで、当該1例につきその問題点を指摘したものと解するほかはなく、前示「そのような加工の例には、低圧の化学的蒸着、減圧の化学的蒸着や選択的なエピタキシアル蒸着などが含まれる。」との記載も、その趣旨を示しているもの理解することができる。したがって、前示各記載があるからといって、本願発明の用途が化学蒸着、選択的なエピタキシアル蒸着に限定されるとすることはできない。
そうすると、本願発明の用途が化学蒸着であり、他方、引用例発明1は化学蒸着の用途に用いられないとして、審決が、本願発明と引用例発明1の用途が異なるとの相違点を看過したとする原告の主張は、引用例発明1が化学蒸着の用途に用いられないかどうかについて検討するまでもなく、失当といわざるを得ない。
(2) また、原告は、引用例発明1の反応管内部に設けた仕切り板2、3が、補強材であるとともに、半導体ウエハを載置する手段、反応管の二重構造化の手段、反応管を三分化して使用ガス量を節約する手段、減圧工程の円滑化及び圧力の偏在防止のための手段である等の目的、機能を有し、そのために、反応管内部において長手方向に平行に設けられる構成を採用しているのに対し、該反応管内部に設けた仕切り板が、低圧・減圧の化学蒸着の実施に際しては、これに化学物質が蒸着し、後続する処理工程において処理対象を汚染する物質の発生源となるとしたうえで、審決が、引用例発明1の目的に基づく内部補強材の構成を本願発明に適用した場合、本願発明の目的・作用効果を達成しないという相違点を看過した誤りがあると主張する。
しかしながら、該主張も本願発明の用途を化学蒸着に限定することを前提とするものであるから、その点において誤りといわなければならないのみならず、原告の主張する、引用例発明1の目的に基づく内部補強材の構成を本願発明に適用した場合、本願発明の目的・作用効果を達成しないとの相違点は、審決の認定した「引用例1に記載された発明(注、引用例発明1)では補強材が反応管すなわち反応容器の内側に取り付けられているのに対して、請求項1に係る発明(注、本願発明)では、補強材が反応容器の壁の外表面に取り付けられている」(審決書9頁9~13行)との相違点に係る構成上の相違を、その各構成を採用した目的ないし作用効果の面からいい換えたにすぎないものであって、畢竟、審決の認定した前示相違点に帰着するものといわざるを得ない。かかる目的ないし作用効果における相違は、引用例発明1における前示構成上の相違点について、引用例発明2の構成を適用することが容易であるか否かを判断する場合に問題となることがあるとしても、その段階で判断すれば足りることであり、それ自体を構成上の相違点から独立した相違点として、別途、摘示認定する必要はない。したがって、審決が、原告主張の点を相違点として認定しなかったことが誤りであるとすることはできない。
(3) 以上のとおり、審決に、原告主張の相違点看過の誤りはない。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について
(1) 引用例1に、「反応管」に関する発明が記載されていること(審決書3頁6~7行)、「半導体熱処理装置においては、・・・減圧処理装置に前記偏平筒状反応管を用いると、反応管内の負圧により容易に押潰されてしまうという問題が生じる。」(同頁9~15行)、「反応管1は偏平状に形成されている為に前記ガス導入管5よりの吸引により内部をほぼ真空状態に減圧して加熱させた場合には、該反応管1の幅広周面上に最も押圧力が印加され、該幅広方向に沿って拡径しながら押潰するものである為に、第1図に示すように反応管1内の断面幅広方向における中央線を挟んでその両側に、透明石英材で形成された一対の仕切板2,3を平行に設け、前記変形を阻止させている。即ち前記仕切板2,3の詳細構成を説明するに、・・・該仕切板2,3の周縁側を反応管1の内周面と鏡板部14の内周壁に沿って固着させ前記変形を阻止する補強板として機能させる。」(同4頁5行~5頁1行)との各記載があることは、当事者間に争いがなく、これらの記載によれば、引用例発明1は、偏平状に形成された反応管内部をほぼ真空状態に減圧して加熱する際、反応管内の負圧、すなわち内外圧力差によって、反応管が、その横断面より見た場合に幅広方向に拡径し、それによって生じる応力によって損傷するに至るので、該応力の増大を防止するため、幅広方向の中央線を挟んでその両側に、透明石英材で形成された平行の一対の仕切り板を、その周縁側を反応管の内周面と鏡板部の内周壁に沿って固着させて配設し、該曲げ変形(幅広方向の拡径)を抑止するものであることが認められる。
他方、引用例2に、「炉芯管」に関する発明が記載されていること(審決書5頁17~18行)、「本考案は炉芯管の外周壁に長手方向の石英ガラス棒を溶接して炉芯管を補強し、耐熱性を増して寿命を延ばし、更に内管と外管との接触を少なくすることによって、両管の融着を防ごうとするものであって、これは半導体ウエーハを加熱処理する際に使用される石英ガラス製炉芯管において、中央部の被加熱部分の外周壁に長手方向に石英ガラス棒を間隔的に複数本溶接してなることを特徴とする炉芯管を要旨とするものである。」(同5頁19行~6頁8行)との記載があることは、当事者間に争いがないが、引用例2(甲第6号証)には、炉芯管の内圧と外圧との圧力差に起因して生じる応力の増大の防止という技術課題、及びその解決のために石英ガラス棒で炉芯管を補強することは記載されていない。
しかしながら、平成元年12月15日第4版第4刷発行の【J】外3名編「岩波理化学辞典」(乙第3号証)には、「熱応力」につき、「温度変化によって生ずるはずの物体の自由な熱膨張や収縮が外部から拘束され、または物体内部の物質相互間の牽制により拘束されて生ずる応力をいう。」(同号証949頁右欄13行~19行)との記載があるところ、該文献自体は、本願出願に係る優先権主張日の約8か月後に発行されたものであるが、その理化学辞典としての性質に鑑み、該優先権主張日当時において、その記載事項、すなわち、物体に外部からの拘束がある場合、温度変化に伴う熱膨張等により熱応力が生じることは、当業者に周知の技術事項であったものと認められる。
しかるところ、引用例2(甲第6号証)には、「内管として使用される石英ガラス製炉芯管も、長時間使用すると熱により断面が変形するため、時々回転させて使用するが、これによる延命効果にも限界があるので、さらに炉芯管の寿命を延ばすことが強く要望されていた。」(同号証2頁15~19行)、「本考案は炉芯管の外周壁に長手方向の石英ガラス棒を溶接して炉芯管を補強し、耐熱性を増して寿命を延ばし、」(同3頁1~3行)、「前記石英ガラス棒は、補強効果を充分にあげるためには、炉芯管の高温に加熱される中央部分よりも長く両側の低温域に跨るように溶接する必要がある。」(同3頁18行~4頁1行)との各記載があり、これらの記載に前示周知事項を併せ考えると、引用例2には、炉芯管の長手方向中央部分が両側部よりも高温で加熱されるため、熱膨張により、中央部分が両側よりも拡径し、炉芯管の長手方向断面より見たときに、中央部の管壁が外側に膨らむように曲げ変形し、それに伴う応力が生じること、そこで、引用例発明2は、炉芯管の外周壁長手方向に、両側域にまでまたがって石英ガラス棒を溶接することにより、管壁の曲げ変形を抑止し、応力の増大を防止して、炉芯管の損傷を回避する効果を奏するものであることが開示されているものと認められる。
そうすると、引用例発明2の炉芯管に生じるこのような変形及び応力は加熱に起因するもの(熱応力)である点で、それが内外圧力差に起因するものである引用例発明1と、応力の生じる原因においては異なるものの、引用例発明2に生じる応力自体は、引用例発明1に生じる応力と同様のものであり、かつ、変形を抑止する手段を用いてかかる応力の増大を防止し、反応管(炉芯管)の損傷を防ぐ点においては、引用例発明2と引用例発明1とで、何ら変わるところがないことは明らかである。
しかして、引用例発明1においては、前示のとおり、反応管の横断面より見た場合に反応管が幅広方向に拡径する変形が生じるものであるが、これを長手方向断面より見た場合には、左右両端の閉塞部ないし閉塞部材(反応管の内部を減圧する以上、その長手方向両端には、かかる閉塞部ないし閉塞部材が存在するはずであって、引用例発明1においては、引用例1(甲第5号証)記載のフランジ12及び鏡板部14がこれに当たる。)によって、両端部で内外圧力差による変形が遮られるので、中央部がくぼむ形状に曲げ変形すると考えられるところ、反応管の外周壁に、棒状の補強材を長手方向に溶接し、この曲げ変形を抑止した場合には、技術常識上、これと交差する方向の横断面より見た、反応管が幅広方向に拡径する曲げ変形も減少させ得るものと理解される。そして、その場合に、反応管の幅広方向に拡径する曲げ変形の程度、したがって、それによる応力の程度を、反応管の損傷に至らない範囲とすることは、設計事項に属する事柄というべきである。
そうすると、引用例発明1の補強材である反応管内部の仕切り板を、引用例発明2の補強材である石英ガラス棒に置き換え、本願発明の要旨の規定する「前記圧力差により前記壁に加えられた圧力に対して耐えるべく該壁の前記外表面に取付けられた少なくとも一つの外部補強材」の構成とすることは、当業者が容易になし得る程度のことであると認められる。
なお、内外圧力差による非円形管の破損が、管の長さに沿って、かつ、細い側壁に沿って亀裂として生じるものであることは当事者間に争いがないところ、米マサチューセッツ工科大学教授【K】の宣誓供述書(甲第7号証)には、「引用例2の長手方向の突起(注、石英ガラス棒)は、引用例1の非円形反応管の潰れを防止しません。・・・管の破損は、この長手方向応力ラインに沿って発生します。長手方向の突起で、この形の破損を防止することはほとんどできませんが、それは破損ラインが長手方向の補強材に並行だからです。」(同号証訳文5頁2~8行)との記載、及び「12頁の右側の図(注、被告平成11年5月27日付準備書面(第2回)添付参考図5の右下の図を指す。)が引用例1の場合に適用可能であるということ(注、「引用例発明1において、反応管の外周壁に、棒状の補強材を長手方向に溶接し、長手方向断面より見た中央部がくぼむ形状の曲げ変形を抑止した場合には、横断面より見た、反応管が幅広方向に拡径する曲げ変形も減少させ得ること」を意味する。)に関しては、私は、不同意です。なぜならば、審判官は、より平坦な上部壁の両方の側端において支持材の存在を(12頁の右側の図面において)提案していますが、実際には、引用例1の管は、そのような支持材を有していないからです。これらの側端支持材の代わりに、引用例1の管は、管の長手方向端部でのみ支持される、側壁を有しています。」(同頁12~17行)との記載がある。
しかしながら、「これらの側端支持材の代わりに、引用例1の管は、管の長手方向端部でのみ支持される、側壁を有しています。」(原文は、「Instead ofthese side end supports,the tube in Reference 1 has the sidewalls,which areonly supported at the longitudinal ends of the tube.」)との文言の趣旨は必ずしも明瞭ではないが、前示のとおり、引用例発明1の反応管においては、長手方向断面より見た場合に、左右両端部では、フランジ12及び鏡板部14によって外周壁が支えられて、内外圧力差による変形が遮られていることが認められ、したがって、「引用例1の管は、そのような支持材を有していない」とすることは誤りであり、これを前提として、前示「12頁の右側の図が引用例1の場合に適用可能であるということ」を否定する立論も誤りであるといわざるを得ない。そして、そうであれば、引用例発明1の反応管に、内外圧力差によって生じ得る損傷(亀裂)が長手方向の補強材に並行であるからといって、直ちに、該補強材が破損を防止することができないといえないことは明白である。
また、原告は、外周壁長手方向に石英ガラス棒を配設した炉芯管を化学蒸着の用途に使用することはできないと主張するが、本願発明の用途が化学蒸着に限定されるとすることができないことは前示のとおりであるから、該主張も当を得ない。
(2) 引用例1(甲第5号証)には、「又前記仕切り板2,3に挟まれる区域1Aと連通する反応管1の任意の個所にガス導出入手段4,5を設け、前記仕切り板2,3に挟まれる区域1A内に所定ガスが流通可能に構成した為に、前記仕切り板2,3上にサセプタを介して半導体ウエハ7を載置させる事により容易に熱処理を行う事が出来る。而も該仕切り板2,3と対面する反応管1外周上に赤外線ランプ6を配設する事により、熱効率よく加熱処理が可能であるとともに、前記仕切り板2,3により実質的に二重構造となる為に、加熱温度分布の均一性が維持され、スリップラインの発生やウエハ7の変形等を防止出来る。更に反応管1は仕切り板2,3により実質的に三分割されている為に、使用ガスの量が少なくて済むとともに前記仕切り板2,3に挟まれている区域1A内と、その両側に位置する反応管1内部空間1B,1Cとを互いに連通可能に構成する事により、該反応管1内の減圧工程を円滑に行えるとともに、反応管1内で圧力の偏在が生じる事がない為に温度の適応性が優れている。」(同号証6欄末行~7欄19行)と記載されており、この記載によれば、引用例発明1の仕切り板が、半導体ウエハを載置する手段、反応管の二重構造化の手段、反応管を三分化して使用ガス量を節約する手段でもあることが認められる。
しかるところ、原告は、これらの仕切り板の目的効果に照らすと、引用例発明1における補強材は、反応管内部の一対の平行な仕切り板でなくてはならず、反応管の壁の外表面に取り付けるものに置き換えることは、引用例1の記載の趣旨に反すると主張する。
しかしながら、この記載に先立つ、「前記反応管1を偏平筒体状に形成した場合は、反応室内を減圧下で加熱した場合において押潰する恐れがあるが、・・・反応管1内に前記変形を阻止する仕切り板2,3を設けた為に、反応室内を0.1~10Torr前後のほぼ真空状態で加熱した場合においても、反応管1の肉厚を厚くする事なく容易に前記押潰を防止する事が出来る。更に前記仕切り板2,3を設けた為に、強度性が向上し、その分薄肉化が可能である。」(同6欄10~19行)との記載、及び前示(1)の当事者間に争いのない引用例1の記載に照らし、引用例発明1の技術課題が、反応室内を減圧下で加熱する偏平筒体状の反応管の押潰の防止にあり、仕切り板2,3を反応室内に設けることが、該課題解決のための手段であることが明らかであって、前示半導体ウエハを載置する手段等であることは、副次的・派生的な効果であるにすぎないと認められるから、引用例発明1の反応管内部の仕切り板を、引用例発明2の石英ガラス棒に置き換えることが、引用例1の記載の趣旨に反するということはできず、引用例発明1に引用例発明2を適用する動機付けを妨げるものとはなり得ない。
(3) 原告は、本願発明が、その構成によって、繋板と繋板の間隔に冷却用空気を対流させてより効果的な冷却を行うことができ、また、繋板に対してジグザグになっている赤外線ランプにより、一様な加熱が可能となるという独自の作用効果を奏するものであると主張するが、それが、実施例の効果ではあっても、本願発明の要旨の「該壁の前記外表面に取付けられた少なくとも一つの外部補強材」との構成による効果でないことは明白であり、審決が、「補強材を反応容器の壁の外表面に取り付けることによる格別な効果を見出すことができない」(審決書10頁10~11行)と判断したことに誤りがあるとはいえない。
3 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由は理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理の申立てのための付加期間の指定につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹 裁判官 宮坂昌利)